ネゴシックスインタビュー 「みんなの必需品になってほしい」

ネゴシックスインタビュー 「みんなの必需品になってほしい」

こだわりの詰まったファッションスナップに続いて、今回はいよいよネゴシックス氏のインタビューをお届け。初のアパレルブランドとのコラボとなるpapatアイテムのお気に入りポイント、提供したイラストのこだわりはもちろんのこと、「やりたいことがいくらでも湧いてくる」というイラストレーションへの思いを熱く語ってくれた。「好き」が形になっていくことの感動をぜひ味わってほしい。

取材・文:岸野恵加


 

――ストリートファッションを愛するネゴシックスさんですが、ファッションに興味を持ったのはいつ頃ですか?

高校生くらいですね。地元の島根には好きな服を売ってる店もあまりなかったから、asayan、smart、クール・トランス…そのあたりの雑誌を読みあさっていました。だいたいのページを覚えてるし、スクラップもしてましたね。その頃から好みはあんまり変わってないんですよ。10代の頃から好きなものを、今でも好きで。偏見ですけど、好きなものがコロコロ変わる人はあまり信用できない(笑)。服はめちゃくちゃ好きで、アパレルの仕事もしてみたかったですね。進路はマンガ家か、服を作る人か、お笑い芸人かという3択だったんです。

――マンガ家も候補だったんですね。

マンガを描いて投稿したこともあるんですよ。ヤンマガに、ギャグマンガを。でもそれが実ることはなく、この道は難しいな、と。

――そこからアパレルとお笑いの2択になり、お笑いを選んだのはなぜ?

ファッションの道を志すなら専門学校に行くことになると思うんですけど、学費が高いじゃないですか。でもお笑いは2、30万あればなんとかなるらしい。あとは体で表現すれば、資本金いらず。ということでお笑いの道を選びました。

――絵は子供の頃からよく描いていたんですか? 

授業中も常に何かしらを描いているような子供でしたね。ロゴマークやらマンガやら。漫☆画太郎先生に憧れてました。特に自分の絵が上手いとは思っていなかったけど。なんだろう、作文用紙に400字書けって言われたら面倒だと思っちゃうけど、自分のオリジナルフォントでいいなら、いくらでも描ける子でした。 

――それだけ絵を描くのことが苦ではないと。

そう。言語よりは絵のほうが、自分の中にあるものを表現する手段としてマッチするんだと思います。古代の人が壁画を描いて伝えようとしてたのと一緒かもしれない(笑)。 

――芸人になってからも、絵をよく描いていたんですか?

割と描いてましたね。ピンになってからは、イラストを交えたフリップ芸をやるようになってまた描く機会が増えたし、描くのが速くなりました。2011年の震災のあと、仕事がないから時間があって。芸人仲間で集まって、みんなで絵を描いたんです。とろサーモン久保田、ムーディ勝山、麒麟川島さんと。そこで描いた絵を個展で販売したら全部売り切れて。それがイラスト仕事を始めるきっかけになりました。

――反響がかなり大きかったんですね。

そうですね。その後もここ10年くらい依頼を途切れずいただくようになって、仕事としてイラストを描き続けられるようになった。芸人ってだいたい、何年も経つといろいろなことをやってみるじゃないですか。音楽やったり映画作ったり、料理したり、本を出してみたり。僕も一通りやってみましたけど、文章書いても全然面白くないし、料理も驚くほどの美味さじゃないし。パッとしないなあと思ってたけど、イラストはやればやるほどやりたいことがどんどん出てきたんですよね。

――公式サイトでは事業内容の欄にイラスト制作やアニメーションなどの映像制作と記載されていましたが、イラスト仕事をさらに本格化させていこうという思いがあったんでしょうか? 

なんですかねえ。僕のイラストを使って、あれこれできたら、という感じかな。インディーズでなんとなくやるよりは、パキッとしっかりやるほうがいいよなと。…まあ、なんとなく作ったんですけど(笑)。

 

――気負っていないんですね。芸人の仕事とのバランスはどのようにイメージしているんですか? 

そんなに考えていないですね。必要としてもらえたら、とにかくできるだけいいものを納品するイメージ。なので依頼がなくなったらそれまでかなと。自分でガシガシいくというよりは、僕と一緒にやりたいと思ってくれる人と一緒にいろいろ作っていけたらと思ってます。「何か描いて」って言われたら、基本はなんでもいけますね。

――お題がなくても? 

あ、お題はちょっと欲しい。お題なしに大喜利でボケて、ってのも難しいですからね(笑)。実際たまにあるんですよ。「グッズに使う絵をお願いします」って、依頼がざっくりそれだけとか。ついこないだもそんな依頼があって(笑)。10年経って、最近は発注時にもらいたい要素をまとめておくようになりました(笑)。

 

――今回のpapatさんとのコラボは、ブランド側からオファーを受けたんですよね。

はい。ブランドを始めるにあたり、第1弾のコラボ相手として声をかけてもらいました。自分でTシャツを作って販売したり、グッズのアパレルアイテム向けのイラストを描いたことはあったけど、ファッションブランドとしっかりコラボするのは初めてだったのでうれしかったですね。

――ブランドにはどんな印象がありますか?

僕はもう44なんで、僕が普段着るようなアイテムよりは少しポップな印象ですけど、生地もいいし、デザインも好きです。特にロンTのデザインとか、いいですよね。袖プリントに弱いんです。

――ネゴシックスさんが提供したイラストは、描き下ろしのものと、既存のイラストがあるそうですが、それぞれのキャラクターについて詳しく教えてください。

はい。何人かレギュラーのキャラクターがいるんですけど、そんなに主張が激しくなく、使いやすいやつを毎回描いていたらレギュラーになった感じですね。最初の1、2年くらいは、全員眼光が鋭くて目がギーッとしているというか、獣みたいになってたんです。タッチのブレも大きくて、顔が違ってたり、服着てなかったり。

――(過去のイラストを見ながら)なるほど。確かに表情もタッチもさまざまです。

「ドラえもん」のマンガも、最初のほうは身長が定まってなかったり、顔が毎回違ったりしたじゃないですか。そんな感じ(笑)。でも描いていくうちにブレがなくなっていきましたね。ブランケットやセットアップのパターンに使われてる「世界遺産シリーズ」は、10年前くらいからあるかな。僕の中では忘れ去っていたものを、今回のために発掘しました(笑)。「現場に行かなくても、遺産があちらから来てくれる」というコンセプトの、こんなにありがたいことはないシリーズです。

――だいぶ歴史の長いキャラクターも多いんですね。

「ぬの袋」もレギュラーメンバーですね。布を被ってるんですけど、中にピンクの人間が入っているのかと思いきや、まったくこのままの形のやつがミチッと入っているという。こいつはアニメも作りました。あと「逃げる先っちょ」は、山の上の部分です。こいつは便利なんですよ。空を飛べるんで、一枚絵を描くときに、上のほうの空白を埋めてくれて収まりがいい。

――(笑)。では、描き下ろしのイラストは?

パンダの「パパンダ」と、虎の「パパットラ」です。ベトナムシャツのフロントに配置することを想定して描きました。あと「papat」のロゴも1点描きましたね。

――どれも元気が湧いてくるようなイラストです。自分で描いたイラストが洋服になって、新鮮に映ったのでは?

全然違いますね。デザインしてもらって服に落とし込まれるとこんなに変わるんだな、とすごくびっくりしました。

――一番仕上がりが印象的だったのは? 

ブランケットはすごくいいですよね。しっとりした感じの…マイクロファイバー?生地に染み込みプリントをしているそうで。プリント感がなくていいなと思いました。吸水性が高いので、タオルとしてサウナやプールでも使えるそうです。

――セットアップも斬新でしたよね。自分の描いた絵がパターンになるのは初めてですか?

ですね。柄物は自分じゃ作れないから。自分で服を作るときは、全部シルクスクリーンの手刷りなんですよ。今日被ってる帽子もそうです。帽子は曲線なので、刷るのが特に難しい。自分で服を作ってみると、大変さがよくわかりますよね。みんなで協力しあってやっと作れるものなんだなって。半年に1回コレクションを考えるというのもすごいパワーだし。アパレルの仕事をしたいと思っていたけど、むちゃくちゃ大変だよなと、今回改めて実感しました。 

――撮影では柄物のセットアップを着ていただきましたけど、いかがでしたか?

生地がすごくシャカシャカしてて着心地が良かったです。インスタに載せたら「どこに売ってるの?」って知人に聞かれたので、すぐにサイトのURLを送りました。子供サイズをモデルの子が着てるのもすごく良かったし、大人は上下どちらかに柄物を差し込むのもいいですよね。

――今回ガッツリアパレルに携わってみて、どんな手応えがありましたか。

どうなんだろう。自分で自分をマッサージしても気持ちいいのかわからないし、自分で作った料理も味がよくわからなかったりするじゃないですか?そんな感じで、自分ではよくわからないです(笑)。着た人に話を聞いてみたいですね。生地もいいし、自分で着てもいい感じだと思ったので、反応が楽しみです。

  • ――どんな人に着てほしいですか?

    「あーそれね」くらいの感じでいろんな人に着てもらいたいです。電気、ガス、水道くらいの感じで、自然な存在に…。

    ――…それだとインフラだから、必需品になってますね。

    (笑)。ほんとだ。そういうふうに、生活に溶け込むといいなって。みんなの必需品になってほしいですね。

――ネゴシックスさんのサイトを拝見していて気になっていたんですけど、ウェブショップで商品写真のバックに、風景写真を敷いていますよね。あれがなかなか斬新だなと思って。

あはは(笑)。あれは僕の実家の近所の田舎の写真なんですよ。昔の「テトリス」って、バックが風景写真だったのをご存知ですか?あれが好きだったんですね。田舎の風景をそのまま生かすより、自分の商品に入れ込んじゃったら面白くなるかなと。普通に商品写真を載せても売れるだろうけど、変なふうに見えた方が面白いよなって。キャプションもそんな思いで書いてます。

――ストーリー性を感じるというか、なんだか買いたくなります。

「読んで損した」と思わせるくらい(笑)、なんか変なほうが面白いですから。ライブと一緒ですね。ライブでも、普通のことしゃべってたら客はどんどん見なくなる。常に振り向かせることを考えているので。ちょっとクセになるような文章を心がけてます。まあそんなに売れてないんですけどね(笑)。1人で手刷りで作るのは本当に大変で。モノを作って売るって本当にすごいことだなと思います。

 

――今後の制作活動について、何か考えていることはありますか?

変に力を入れて「なんでもできます」みたいに気張るのはやめたんです。芸人は特に、20代の頃はそんな感じなんですよ。でも自分のサイズ感を理解することも大事。僕は44になって自分がやれることやサイズ感がわかったから、これからもこんな感じで心地よく作っていきたいです。

――アパレル以外でも、手がけてみたいものはありますか?

なんですかね。駄菓子のパッケージとかかな。あとはデカいものがいい。飛行機のラッピングとか。

――大規模でいいですね。

地元島根の施策で、学校給食運搬用のEVトラックのデザインをしたことがあるんです。それが今度広島で開催されるG7に展示されるらしくて。各国首脳の視界に入るかもしれない(笑)。大きいものだと番組のセットとかは手がけてるんですけど、何回見ても笑えるくらいデカい方が面白いというか。大仏とか太陽の塔とか…月に投影するとかもいいかもしれないですね。人ってデカいものは見飽きないじゃないですか。

――ちなみにネゴシックスさんのイラストは、海外でも人気が出そうだなと思うのですが、海外進出を考えたことは?

あー、考えたことはあります。イラストを楽しむのに言語はいらないですからね。30代前半の鼻フンフンいわせてる頃、借りれるギャラリーがあるか、ニューヨークのソーホーをうろうろして探したこともありました。今はそんな熱もなくなりましたけどね。そういえば、この間格闘家の三浦孝太さんの試合用のTシャツをデザインさせてもらったんですよ。ちょうどイラストを納品したところで。アジアですごく人気のある方だそうなので、反響が楽しみです。こうして、エッサホイサとやってきたら結局マンガやイラストも仕事にしているし、服作りにも携わっていて。やっぱり10代の頃に夢中になったものが自分の全部なのかなと、実感する日々です。

――お笑いの道を選んだけど、最終的にすべての夢を叶えられたというのは素敵ですね。

全部10代のあの頃に決まってたのかなと思うし、結局人間、思ったことしかできないんだなと思います。思っていないことにはやっぱり辿り着けない。でも力を貸してくださる方々がいるのは大きいです。服を作ろうと思っても自分だけではせいぜい1、2種類しか展開できないし、こんなにたくさんのアイテムを、1つのコレクションとして披露できる状況はなかなかない。だから今回は本当にありがたかったですね。

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