PAPATプロデューサーが語る「papatが生まれるまで」
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PAPATプロデューサーが語る「papatが生まれるまで」

2023年4月にデビューしたばかりのストリートブランド・papat。どのデザインも共通してカラフルな色使いが特徴的で、アートやサブカルチャーの香りが漂っているが、そこにはプロデューサー・野田靖童の考え方が色濃く反映されている。今回はそんな野田へのインタビューをお届け。「遊び心を持って、少しずつ派手な服に挑戦してみてほしい」と語る彼が、アイテムに込めた思いとは。

取材・文:岸野恵加


子供の頃からカラフル好き。人とは見えている色が違う

――今春ブランドがスタートしたばかりのpapat。まだベールに包まれている部分も多いですが、定期的に読みものを掲載することで制作の背景を少しずつ知っていただいて、皆さんにブランドをより楽しんでいただきたいと思っています。今日は中心人物である野田さんのお話を伺っていきますが、まず野田さんは、ご出身はどちらですか?

1985年に大阪で生まれました。あまり世間的なイメージの良くない(笑)、西成という街です。ホルモン発祥の地とも言われていますね。 

 

――西成は近年再開発が進んでいますが、治安が悪いというイメージがどうしてもまだ先行していますよね。実際暮らしているときは、どういう印象を抱いていたんでしょうか? 

公園でボール遊びをしていたらホームレスのおじちゃんが「俺もやらせてくれ」って入ってきたり……日雇い労働者の方が多いというのかな、活気がある街でした。でも凶悪事件が身近で起きていたということもないし、そういう環境で育ったから、自分は垣根なく誰とでも話せるようになった気もしています。

 

――子供の頃はどんな毎日を過ごしていましたか?

母は下着メーカーでデザイナーをしていて、父はバーテンダーをやっていたので、中学生くらいまでは祖父母の家で過ごすことが多かったんです。だからゲームが友達みたいなところがあって。ファミコン、スーパーファミコン、プレイステーション……ハードが発売されるたびに一通りやっていましたね。子供の頃、タートルズがすごく好きだったんですよ。タートルズのゲームをやるためにゲームボーイを買って。すごくハマってましたね。 

 

――papatで近日、タートルズをデザインしたアイテムが発売されますが、そうしたご自身のルーツからだったんですね。タートルズはどういうところが好きだったんですか?

亀が忍者になって、好きな食べ物がピザ、という謎の設定で(笑)。そういうぶっとんだところとか、キャラクターの個性も好きでした。

 

――ルーツということで言うと、お母様がアパレルのお仕事をしていたことに影響を受けて、ご自身も自然と同じ道を目指すようになったんでしょうか。

はい。母の影響で、小さい頃からアパレルに興味を持つようになりました。自分が着る服へのこだわりも強かったです。母が海外出張のお土産で買ってきてくれた、小学生の頃、日本未入荷だったアバクロンビー&フィッチのTシャツをイキって毎日着たがったり(笑)。周りの人と同じ服を着るのがとにかく嫌で、目立ちたがり屋でした。カラフルでアメリカンな感じが好きでしたね。 

 

――papatもカラフルな世界観が特徴的ですが、では幼少期からそうしたものがお好きだったんですね。

もともと派手好きですね。それともう1つ大きい要素なんですが、僕は色弱なんですよ。だから、普通の人とは見えてる世界が違っていて。

 

――そうだったんですね。日本人男性の20人に1人は色弱であるとも言われていますが。野田さんは特にこの色が認識しづらい、などはあるのでしょうか。

赤があまり見えてないみたいです。お花見に行っても桜はグレーの花びらに見えるし、焼肉がしっかり焼けてるのか判断ができず、焦がしてしまうことも。だから、派手な服を着ていても周りの人とは感覚が違って。自分がパステルブルーだと思って着ていたら実際はパステルピンクで、「めっちゃピンクやん」って言われたり。でも僕はそれをハンデだとは全然思ってないんです。お客さんに指定された色がきっちり判断できなかったり、仕事をする上で困ることもあるんですけど、そこはデザイナーに確認してもらって問題なくやれていますね。 

 

――見えている世界が人とちょっと違うということは、お洋服の仕事をする上では個性として活かせそうですよね。

そうだと思います。僕は色の掛け合わせや補色の入れ方を考えるのが好きなんですが、インパクトがある組み合わせを選びがちなので、そこを個性にしていけたらと思っています。

 

世にないものを生み出す快感

――話が少し戻りますが、お母様の影響を受けつつ、アパレル業界に就職しようと心に決めたのはいつ頃ですか?

高校生までずっと、バスケットボールをガッツリとやってたんです。高校もバスケの推薦で入学して。でもやっぱりプロになるのは狭き門だと思い、次に好きだったアパレルを仕事にしようと決めました。専門学校は課題に追われるイメージがあったので、服飾課程が学べる芸術大学を受けました。



――実際にお洋服を制作していたんですか?

専攻はテキスタイルと染色で。自然の染料で布を染めたりして、服をたくさん作るというよりは伝統工芸に近いことをしていましたね。生地を触るのが好きでした。



――ほかに学生時代はどんなことに夢中になっていましたか? サークルに入ったりも?

バスケは部活で続けて、他にもスノーボードのサークルに入ったり、アクティブに過ごしていました。あとは大学で仲良くなったメンバーとストリートっぽい遊びをしたり、クラブに行ってレゲエやブラックミュージックが好きになったり。その頃に吸収したカルチャーが今も一番強く自分の中に残っていますね。



――それで就活をして、大学を出てからは順調にアパレル企業に就職を。

大学時代は遊びに夢中になっていたので(笑)、あまり就活を熱心にはしていなくて、最悪父親のバーを継ごうかな、とも考えてたんです。でも大学の就職課に、関西では大手のBEBEという子供服の会社から募集が来ていて。マーチャンダイザー(MD)を希望する人が僕の他にいなかったので、トントン拍子で就職が決まりました。



――MD……というのはどういうお仕事なんでしょうか。

ブランドの舵取り役、監督というか、方向性を決めたり、設計する役割ですね。僕は色弱なのでデザイナーになるのは難しくて、MDを目指すことにしたんです。



――大変失礼ですが、野田さんは大柄で髭を生やした、いわゆる「イカつい系」というか迫力ある見た目なので……子供服のお仕事に就くのは周囲から意外に思われそうですよね。

そうですよね(笑)。会社に入った頃はドレッドやアフロだったので、今よりさらにインパクトが強かったのか、「子供服の企画の仕事をしてます」と自己紹介すると、「冗談はいいです」と言われたりしていました(笑)。でもそういうギャップから、取引先の方にすぐ顔を覚えてもらえるんですよ。それはメリットでしたね。



――子供服はもともとお好きだったんですか?

いえ、好きではないです(笑)。でも会社で服を作るとなると、売れるテイストとかを考えなきゃいけないし、自分の好きな風にはできないじゃないですか。だからビジネスでやるとしたら、メンズではなくレディースかキッズをやろうと。正直けっこう安易で、メンズじゃなければいいや、というくらいの意識でした。でもキッズには自分には合っていたのか、BEBE時代にヒットを飛ばすことができたんですよ。小学校高学年の女子向けの、ギャルっぽい服を担当してたんですけど……。

 

――ギャ、ギャル!?

ギャルです(笑)。彼女たちは、背伸びしたい年頃なんですよね。なのですごく厚底の靴を作ったんですよ。やはり転んだら危ないので、安全性を考えるとなかなか子供向けのヒール靴は作れないんですけど、企画を押し通して作ったら、びっくりするくらい売れたんです。ニコプチという雑誌でも取り上げてもらったりして。世にないものを生み出す快感を、そこで味わったというか。それまではトレンドのものにうちのロゴを付けて売る、くらいが会社のやり方だったんですが、「他がやっていない面白いことをやりたい」という思いに目覚めました。そこはpapatにも通ずるところがありますね。



――そこが原点にあるんですね。そして、今の会社に転職したのはいつ頃ですか?

BEBEに8、9年在籍してから今のオーパスという会社に転職し、今で7年目です。オーパスで扱うものは同じ子供服ですが、洋服を実際に生産する立ち位置です。僕はMD兼営業としてクライアントに合う商品を提案したりするんですけど、「この会社ならこんな商品が合うかな」とか考えるのがすごく面白くて。やりがいを感じていますね。

 

「自分と同じ体型の人に合う服を作ったら面白いのでは」

――ニーズにぴったり合うものを提案できたときは達成感がありそうですね。そんな中で、完全なる自社オリジナルブランドとしてpapatを始めたわけですが、どうしてスタートさせようと思ったんでしょうか?

きっかけは会社の30周年式典でした。今、子供服だけをやってる会社って少ないんですよ。少子化も進んでいく一方だし、僕たちのような中小企業が今後も子供服だけでやっていくには限界がある。それで新規事業を社内で募集していて。僕は身長182cmで体重が95kgある、いわゆるワガママボディなんですね。でもメンズブランドのルックを見ていると、やっぱりシュッとした体型の人が着ているものがほとんどで、気に入って買っても、自分が着たときに「なんか違う」となりがちで。でも街中を見渡すと、自分と同じような体型の方ってけっこういるんですよ。そうした人たちに合った服を作ったら面白いものになるんじゃないかな、というアイデアが自分の中に湧いてきたんです。それで企画書を作って、社長に提出したところが始まりでした。



――その企画が見事通った、と。

はい。社長にも「野田くんみたいな体型の人って、確かに着る服がなさそうだね」と言ってもらえて。papatはストリートブランドなんですけど、いわゆるtheストリートブランドという感じのクールな雰囲気ではなく、少しポップな要素を入れて、色味も派手な感じにしてみたら、トレンドに寄せたものではなく独自路線になって面白いんじゃないかと思いました。

 

――オーバーサイズなシルエットが多い印象はありましたが、加えてサイズ展開も大きめが用意されているのがpapatのこだわりなんですね。公式サイトではそこは大々的に打ち出されていなかったので、お話を聞いて「なるほど」と思いました。

今はXXLまで展開していて、今後XXXLまで出す予定です。今後はもう少し、僕や僕と近い体型の人の着用写真もSNSに載せていきたいと思っています。



――ちなみに、生地や着心地面でのこだわりなどはありますか?

生地にはこだわっていますね。そしてサイジングを重視しているので、実践はまだこれからなんですが、今後は販売前のTシャツを一度自社で洗って、縮まないような工夫をしていきたいと思っています。普通の新品のTシャツって、必ず縮むんですよ。5cmくらい短くなることもあるくらいで、試着の意味がないのではと思ったりする。なので買ったときのサイズ感が続くように、こだわっていきたいと思っています。

 

派手色の世界に飛び込んでみてほしい

――1stコレクションではネゴシックスさんとコラボしましたが、今後もアーティストの方とのコラボ商品を展開していくんでしょうか?

いろんな方とコラボしていきたくて、すでに企画が進んでいるものもあります。ネゴシックスさんもそうでしたが、今後も色使いが鮮やかで、ポップな要素を持っている作家さんに声をかけていきます。ブランドコンセプトに合うかどうかが一番大事ですね。次にコラボするのは、ウラタスパンコールさんというイラストレーターの方です。



――ウラタさんの作風もとてもカラフルですね。

アーティストが数人参加していた展示会にプライベートで行ったときに、ウラタさんの絵がすごく目に留まったんです。それでお声がけしました。僕が好きなバスケットボールを題材に、架空のチームを描いてもらったりしています。ネゴシックスさんとはまた違うポップさをお見せできると思います。


――お話を聞けば聞くほど、売れるかどうかやネームバリューで判断するのではなく、野田さんのブレない好みがブランドの軸にあることをひしひしと感じました。

そこは大事にしていますね。自分が本当に好きなものを形にしたいと思っています。

 

 

――ちなみに「こんな人に着てもらいたい」というイメージはありますか?

もちろん幅広い世代の方々に着てほしいですが、やっぱり自分と同じようなカルチャーが好きな20〜40代の方々には、共感して楽しんでもらえると嬉しいですね。「これくらい派手じゃないと面白くないよね」と思ってくれたらいいなと。

 

――野田さんとしては、派手なお洋服の魅力とはどういったところにあると思いますか? これまで派手な色の服をあまり着たことがない人だと、正直手に取るのに勇気がいる部分はあるのかもしれないなと。

いつも全身黒、みたいな人には確かに取り入れづらいですよね。でも、全身を派手なアイテムで固めなくていいと思っていて。例えば白のTシャツに鮮やかなプリントがされているとか、ボディはベーシックだけど色が効いているとか。ネゴシックスさんと作った「WORLD HERITAGE PATTERN」のセットアップなんかも、かなりパキッとした黄色ですが、形はとてもシンプルなので。そういったところからちょっとずつ、「派手な世界においでよ」と(笑)。男の人は特に凝り固まりやすくて、なかなか好きなものが変わっていかないんですよね。でもせっかく世の中にはいろんな色があるんだし、楽しんでもらいたい。例えばロックテイストな人が革パンの上に真っ黄色のTシャツを着ていたら、すごく面白くてカッコいいじゃないですか。

 

――それはかなり斬新ですね。

そういうほうが面白い。「革パンには革ジャンでしょ」というような固定観念を持っているような方に、手に取ってもらえたらいいなと思っています。

 

――遊び心……「少し冒険してみない?」という提案ですね。

そうです。「目立つのがよくない」という風潮はあんまり好きじゃないんですよ。ベーシックなアイテムも間違いないですが、「もう少し遊んでみませんか?」と。Tシャツ1枚からでも派手なアイテムを試してみていただいて、そこからpapatのファンになってくれる方が増えていってくれたら嬉しいですね。スキンヘッドで髭の大男が着たらこうなる、という見せ方もどんどんしていきたいし(笑)。まずは自分が楽しんで、これからもブランドを続けていきたいと思います。

 

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